08/28 (木)
ホテルをチェックアウト。視察最終日だがみっちり予定が入っている。まずデンマークにおけるゴミ・リサイクル政策と現地調査。バスでコペンハーゲン市内のAmagerforbranding(ゴミ焼却・リサイクル施設)へ。環境問題については、北欧の先進事例は日本のHPを見てもすぐわかるのだが、現実にはどうなのだろうか。
Amagerforbranding(ゴミ焼却・リサイクル施設)
Amagerforbranding広報担当のスサンナさんから当施設について説明を受ける。懐かしいOHPを使って説明。 このアメヤごみ焼却場は1970年設立。コペンハーゲン周囲の首都圏5市が共同出資して設立した。他に有害ゴミを処理する施設が全国に一箇所ある。これは全国98市の共同出資である。80年代から環境問題としてリサイクルが強調され始めた。ここも営利目的ではなく市民還元、つまり、ゴミを燃やしたエネルギーを電力、熱供給に回すことが目的である。1990年以降は、リサイクルセンターに市民がゴミを持ってくるシステムになった。このシステムの運営も同時に我々が行っている。ゴミ埋立地ももっている。市民が捨てられるゴミ箱を設けている。例えば、スーパーに乾電池を捨てられるようにもしている。市民が出すゴミに関すること全てを担当している。設立5市の人口は53万人。域内には36,000の企業、施設がある。設立当時は23万5000トンのゴミの量だったが、現在倍増している。社会の変化に合わせ、この工場も改築工事などしているが、技術・収容面の改善も課題である。設立と同時に熱利用のための熱供給施設も完成したが、1991年からは発電も行うようにした。現在、コペンハーゲン市20万世帯の電力を供給している。これは市民の約半数である。
広報担当のスサンナさん
現在、5市に8箇所のリサイクル回収所を設けている。回収所のほかゴミ回収リサイクルセンターへの持込も無料である(個人宅の回収は有料)。中小企業の持込も無料だが、回収は有料である。家庭ゴミはゴミ税を払う。基本的に無料なのは有料なら高速道路や森に捨てる可能性があるからである。全てのゴミを回収したいというのが考え方である。家庭ごみは回収コンテナに絵(イラスト)が描いてあるのでこの絵に合わせて分別してゴミを入れる。よちよち歩きの子供もゴミを捨てている。そうして子供の頃から分別を覚えていく。
搬入されたゴミは、まず燃焼かリサイクルか埋め立てか3つの方法にわける。63%がリサイクル、26%が焼却、11%が埋め立て、である。アスベスト入り、化学処理木材、断熱材が埋め立てに回る。焼却は燃焼用ゴミ、台所ゴミ、企業ゴミ。41万8000トンを燃やす。発電にもまわす。企業ゴミの燃焼度が高いので、新たに高い焼却率をほこる焼却炉も必要となっている。住居の改善が進んでおり、工事現場からのゴミが多く意外と木が多いのである。家庭ごみは昔からあまり変化はない。
ゴミ運搬車。家庭ごみ回収車と建設資材の回収車
トラックでゴミを搬入すると、サイロに運ばれ、常時3000〜5000トンのゴミが入っている。自動クレーンが2機動いているので、ゴミを焼却炉に入れ、そこで焼却される。最大容量は17トン、焼却炉は4基。中の温度は950度。有害ガスは石灰を吹き付けたり、活性炭を使って洗浄する。重金属や水銀など有害物も含まれている。その含有量はネットでも公表されており、市民が調べることができる。その後、中和して埋立地にもっていく。
1日当工場を運営するのに4メガワット/日かかるが、一方で電力、熱(お湯)、鉄分(5460トン)、スラグ(ゴミ重量の20%)も出る。鉄とスラグはリサイクルする。スラグは高速道路の材料となる。ゴミの量全418,222トンのうち、埋め立ては22,000トンまで減った。
近年、埋め立ての適切な場所が見つけにくい。見つけてもその市が設置を嫌がる。ゴミの量が増え、焼却が追いつかない。一時的に保管する場所も足りない。リサイクル回収センターは去年1年間で12万トンのゴミを回収した。この回収センターの増設も困難になってきている。実は過去にあるセンターが途中閉鎖に追い込まれた。近所の市民が、うるさい、ゴミ粒子が飛んでくる、と主張したからである。代替施設の設置は困難である。ある市では既存のセンターを住居に変えたいということで閉鎖になったところもある。
その後、質疑応答。
Qフィンランドではペットボトルにデポジットを取り入れ、インセンティブのつけ方がうまいと感じた。こちらのリサイクルでも何かインセンティブの制度はあるのか?(デポジット:一定の金額を預かり金(デポジット)として販売価格に上乗せし、製品(容器)を返却すると預かり金を消費者に戻すという仕組みのこと) A(デポジットは当然。1920年頃には既に導入されていたらしい。ビールや清涼飲料水についてはすべてリターナブル容器であり、使い捨て容器や金属缶の使用は禁止。ガラス瓶は30回、ペットボトルも約20回再利用されているという)。 デンマーク国民の大多数は分別が大切だと知っている。一部は気にしない国民もいる。そこで広報が大切。新聞、チラシをスーパーや図書館に置いておく。絶えず意識喚起することが大切。首都圏は所得層はまちまち。一軒家とアパート居住者には意識の差がある。アパートの近くには、コンテナを置いている。新聞、雑誌などの紙、非リサイクルビンのコンテナは町のいたるところに置いてある。独居者はゴミの認識度が低い。すぐにゴミが捨てられるようにしてある。ゴミが簡単に捨てられるという認識を国民にもってもらうことが大切。
Q家庭ごみ税はいくら払っているのか? A市民1人年間平均年間2000〜3000クローネ(1クローネ=約25円)。この施設にはそのうち100クローネしか入ってこない。その他は運搬業者への支払や、ねずみ疫病保険に入ったり、必要経費にあてられている。
Q家庭ごみ税はどのように課税するのか? A年2回、固定資産税と同時に課税している。持ち家の人は資産に応じて課税され、アパートを賃貸している住民の場合、直接請求されることはなく、家賃に含まれているという考え方である。
そのまま、ヘルメットをかぶり、現場のゴミ処理場を見学。
ストーカー炉の説明。建て替えの必要ありと感じました。デンマークでも迷惑施設の位置づけで住民は近隣への設置に反対するそうです。
ストーカ式焼却炉であった[ストーカー式とは階段状の格子(ストーカー)上にごみを供給し、格子の往復運動によって順次ごみを下方へ移動しながら燃焼する方式]。建設時の70年代では世界最新のシステムも姫路市で2010年に導入予定の「シャフト炉式ガス化溶融炉」のような最新式と比べると、ダイオキシンの発生など悪性物質の発生、再資源化、処理能力の低さなどで、施設の更新の必要性はこちらでも問題点として認識されていた。日本の方が施設面では進んでいるところが多いと思う。
広場に放置されているスラグ。雨にあてることによって重金属などの有害物質が固まるという??
分別意識や環境への関心は高い。とはいえ、これらの施設への住民の反対運動や旧式施設のままの運用、街中でのタバコのポイ捨てなど、課題はあると感じる。
その後、コペンハーゲン市中心部。自動車の排出するCO2対策としての自転車優遇政策の調査へ。Yさんから伺う。
自転車マークのあるところは自転車専用道路
街のいたるところにある自転車置き場。自転車といえば日本ではまず放置自転車問題が言われますが、コペン市中心部には210箇所の公営駐輪場を整備。前輪をセットし、施錠できるようになっています。無料です。
自転車専用道では自転車優先。歩行者とぶつかっても歩行者の責任になるそうです。自転車専用道がないところは自転車は車道を走らなければなりません。破れば罰金です。
最近は前後にリヤカーがつき子供を乗せることができる自転車が増えているそうです。通勤時に保育園に送り迎えする姿がよく見られます。
コペンハーゲン市のシティバイク(無料自転車)。2000台が整備されていますが、大半が利用中のようでなかなか見つけられませんでした。自転車には企業広告が入っており、鍵の部分に20クローネコインを差し込めば使うことができます。観光客の多い5〜8月に使用されます。
ハンドル部分にコペンハーゲン市中心部の地図。この域内しか走ることができません。
専用の自転車保管場所に戻ってきてチェーンの先を差し込むと先に入れた20クローネが戻ってきます。もし街のどこかに乗り捨てられ放置された場合でも、子供が必ず保管場所に戻してくれるとのことです(小遣い稼ぎ)
現在、市民の通勤手段の36%が自転車という。山がなく平坦な地形という地理的好条件もあるが、高い比率である。市は2011年にこの比率を50%にする目標を立て、あわせて、車を市内に乗り入れる人に対して、料金をとることを検討しているという。これによりCO2を年間21万トン節約できるという計算である。自転車道を整備し、現在自転車の利用者にアンケートをとったところ、80%の人が自転車道路に満足しているという。早朝にレンタサイクルで自転車道を走ってきたというIさん(県自転車競技連盟顧問)によると、凄いスピードで通勤している人も多かったという。リヤカーに子供を乗せている自転車通勤夫婦も見かけたという。
また、生活保護者や長期失業者に講習を受けさせ、半年間故障した自転車整備の仕事を担当させるなど、福祉施策の側面もあるという。
街中には自動車用の公営パーキングメーターも見られましたが。今後自動車の乗り入れを減らしていくかということで、市内入場料金制に行き着いたようです。恐らく実現されるのでしょう。
その後、コペンハーゲン市内中心部を通って、バスで空港へ。チボリ公園と言う有名な観光地もあるらしいが、最近スリがうようよしているという。実際にバスの運転さんはスリを捕まえたことがあるという。今回実際に身近でスリの被害にあったので本当に驚いたが、EUの統合によって、スリ流入という予想外の弊害もあったということはフィンランドと同じである。
現在、デンマークは経済がここ数年、年率平均3%超の成長を記録するなど好調。現在の失業率は2.6%とEU内のデータ公表国23カ国で最も低い。逆に人手不足で困っているそうだ。世界経済フォーラムの調査では、国際競争力もアメリカ、スイスについでデンマークが3位である。
Yさんは、その理由として福祉がよく、組合が強いにもかかわらず「企業が労働者を解雇するのが簡単な国である」という。組合の強いことと相反すると思うが、(企業が景気に合わせ雇用調整を行うことができる)「フレキシビリティ」と(失業させられたとしても充実した失業保険で安心に暮らせる)「セキュリティ」がしっかりしているのだという。この2つの単語をあわせて『フレックスキュリティ』という造語がデンマーク経済の好調な原因として研究者によって作られ、有名になっているという。実際、欧米からの視察も多いそうだ。
確かに、今日は木曜日。午後を少し回った2時過ぎだが、車の渋滞が始まってきた。木曜日も週末の金曜日と同じ様に週末のような扱いとなり、昼過ぎになると適当に仕事を終えて、市内に遊びに来る人が増えるため(デンマーク政府公認ガイド通訳Yさんの解説)、渋滞が起きているのだという。仕事に対する執着があまりなく、生活を楽しむために仕事をしているといった感じである。
「ダボス会議」で有名な世界経済フォーラムの2007年国際競争力ランキング 1 米国 2 スイス 3 デンマーク 4 スウェーデン 5 ドイツ 6 フィンランド 7 シンガポール 8 日本 9 英国 10 オランダ
■ 2008年春、スイスの経営開発国際研究所(IMD)の2008年世界競争力ランキング 1 米国 2 シンガポール 3 香港 4 スイス 5 ルクセンブルグ 6 デンマーク 7 オーストラリア 8 カナダ 9 スウェーデン 10 オランダ 22 日本
国際的に有名な2つのいずれの調査でも日本はデンマークに負けている。デンマークは「高福祉を保ったまま、国際競争力の高い国」になっている。この両立は凄いことではないか。第二次世界大戦でナチスドイツの侵攻にデンマークはほとんど戦わず3時間で降伏したという。一方、ノルウェーは3日後に降伏したという。デンマークに戦争の被害はほとんど出なかったが、ノルウェーは被害が大きかったという。どうせ勝てないなら被害を最小にと考えた結果だったという。少しずるいかもしれないが、生き抜く知恵がデンマーク人にはあるということでは(日本人でデンマーク公認ガイド通訳のYさんの話)。
世界最大の海運会社マースクラインの創業者A.P.ムーラー財団が寄付した総工費550億円の国立オペラ劇場(2.5ビリオンクローナ)。こちらでは成功者が寄付するのは当たり前のことのようです。ビールで有名なカールスバーグも「人魚姫の像」を寄付しているといいます。
一方、空港へ向かうバスの車中、Yさんによる年金制度の説明の中で、「デンマークでは独居老人は生活費がかかるため年金が2倍支給される」という説明があった。すると車内から、「偽装離婚する人たちはいないのか」という質問が出かけた…。日本で議員をしていると、残念だがこの種の話はよく聞く話である。ただし、デンマークで日本の議員が行う質問としては、かなり恥ずかしい内容。それだけに、自主的にストップされたのでよかった(安堵)。
修理中のデンマーク国会議事堂
最後に、「高福祉とはいえ、なぜ25%もの付加価値税を払うことに大きな文句が出ないのか」。と聞く。すると「政治がガラス張りだからです」。ネットを見てください。この国のことは何でも見ることができますよ。これも恥ずかしい質問だったかもしれない…。
コペンハーゲン空港からヘルシンキ空港。ここで乗り換えて大阪国際空港へ。
|