この条例・規則を解釈できますか?
−期末・勤勉手当の基礎額を職務の級に応じて加算すること(俗に傾斜配分)の根拠について−
平成17年3月18日 |
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議会の中で、条例解釈の議論はあまりなかったのですが、一連の報道には「条例に基づいており、問題ない」とか「議会で議決されている」とよく書かれています。記者の方にそのように説明しているようです。
それでは、本当に条例を読めば、その根拠や内容が明らかになっているか、一つの事例をあげて市民や市役所の専門家のみなさんに見ていただくことにします。
例としてあげるのは
「期末・勤勉手当の基礎額を職務の級に応じて加算すること(俗に傾斜配分)の根拠」についてです。
- これは当HPではじめて取り上げる問題で、議論のあった「勤勉手当の増額支給」とは関係ありません。国等でも実施されています。
- 私は、期末手当や勤勉手当を役職や成績に応じて増額支給することに賛成の立場であることを念のため記載しておきます。ただし、その増額する根拠、数値等については条例・規則で明記しておく必要があると考えています。
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「条例」とは、地方公共団体が、法令の範囲内において制定する法規をいいます。したがって条例によって制定しようとする内容は、地方公共団体の事務に属するものでなくてはなりませんし、法令に違反するものであってはなりません。また、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがあるものを除くほか、条例で規定しなくてはなりません。
条例には、法令に特別の定めがあるものを除くほか、違反した者に対して2年以下の懲役若しくは禁錮、100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができます。
条例の制定・改廃は、議会の議決によって成立するのを原則とし、条例案の議会への提案権は、原則として、長、議員の双方が有しています。
条例の効力は、長がこれを公布することによって生じます。議会の議長は、条例の制定・改廃の議決があったときは、その日から3日以内にこれを長に送付し、長は、送付を受けた場合において再議その他の措置を講ずる必要がないと認められるときは、送付を受けた日から20日以内にこれを公布しなければなりません。
「規則」とは、地方公共団体の長(市長)が、地方自治法の規定に基づき、国の法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務について制定する法規をいいます。また、地方公共団体の長のほか、教育委員会、公平委員会等の執行機関も、その権限に属する事務に関して、国の法令又は条例に違反しない限りにおいて、規則を制定することができます。
地方公共団体の長の定める規則には、規則に違反した者に対し、法令に特別の定めがあるものを除くほか、5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができます。 |
(群馬県高崎市例規集説明HPより) |
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○姫路市職員給与条例(昭和29年7月13日条例第18号)−議会の議決した条例
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第15条第5項 行政職給料表の適用を受ける職員で、その職務の級が4級以上であるもの及びその職務の級が3級であるもののうち規則で定めるもの並びに同表以外の各給料表の適用を受ける職員で職務の複雑、困難及び責任の度等を考慮してこれらに相当する職員として当該各給料表につき規則で定めるものについては、前項の規定にかかわらず、同項に規定する合計額に、給料の月額及びこれに対する調整手当の月額の合計額に職務の級等を考慮して規則で定める職員の区分に応じて100分の20を超えない範囲内で規則で定める割合を乗じて得た額を加算した額を第2項の期末手当基礎額とする。
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○姫路市職員給与条例施行規則(昭和29年7月13日規則第19号)−市長の定めた規則 |
第15条の2 条例第15条第5項(条例第15条の4第4項において準用する場合を含む。以下同じ。)の行政職給料表の適用を受ける職員でその職務の級が3級であるもののうち規則で定めるもの(以下この項において「3級対象者」という。)及び同表以外の各給料表の適用を受ける職員で行政職給料表の職務の級4級以上の職員又は3級対象者に相当する職員として規則で定めるものは、別表第7の職員欄に掲げる職員(行政職給料表の適用を受ける職員で職務の級4級以上のものを除く。)とする。
2 条例第15条第5項の規則で定める職員の区分は、別表第7の職員欄に掲げる職員の区分とし、同項の100分の20を超えない範囲内で規則で定める割合は、当該区分に対応する同表の加算割合欄に定める割合とする。 |
別表第7(第15条の2関係)
給料表
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職員
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加算割合
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行政職給料表
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職務の級9級の職員
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100分の20
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職務の級8級の職員
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100分の15
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職務の級7級及び6級の職員
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100分の10
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職務の級5級及び4級の職員並びに職務の級3級の再任用職員以外の職員(12号給に達しない号給を受ける職員にあっては、市長が定める者に限る。)
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100分の5
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技能労務職給料表
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職務の級5級及び4級の職員並びに職務の級3級の再任用職員以外の職員(11号給に達しない号給を受ける職員にあっては、市長が定める者に限る。)
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100分の5
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消防職給料表
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職務の級8級の職員
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100分の20
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職務の級7級の職員
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100分の15
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職務の級6級及び5級の職員
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100分の10
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職務の級4級及び3級の職員並びに職務の級2級の再任用職員以外の職員(消防士長の職にある職員のうち10号給以上の給料月額を受けるものに限る。)
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100分の5
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医療職給料表
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職務の級4級の職員
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100分の15
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職務の級3級の職員
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100分の10
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職務の級2級の職員及び職務の級1級の職員(市長が定める職員に限る。)
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100分の5
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ここまでは、条例・規則に数値や加算割合が明記され、その支給根拠は、はっきりしています。ただし、この別表には下記のような「備考」がついています。「備考 1」を解釈できますか? |
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別表第7 備考
1 この表の給料表欄の給料表に対応する職員欄の区分(行政職給料表及び消防職給料表の項中最上位の区分を除く。)に属する職員のうち職務の複雑、困難及び責任の度等を考慮して市長が特に必要と認めるものについては、この表の当該職員の加算割合に100分の5を加えた加算割合を当該職員の加算割合欄に定める割合としてこの表に掲げられているものとする。
2 給料表の適用を異にして異動した職員(異動後においてこの表に掲げられている職員に限る。)で、異動後の加算割合が異動前の加算割合を下回ることとなるもののうち、他の職員との均衡及び任用における特別の事情を考慮して市長が特に必要と認める職員については、当該異動後の加算割合に100分の5を加えた加算割合が定められている職員の区分に属する職員としてこの表に掲げられているものとする。 |
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残念ながら、私には、備考1の下線部分「この表の当該職員の加算割合に100分の5を加えた加算割合を当該職員の加算割合欄に定める割合としてこの表に掲げられているものとする。」の解釈ができませんでした。
ただし、調査の結果、この備考の解釈は「別表に掲載されている”加算割合”欄には記載していないが、この表のある部分には、更に、100分の5が追加されているところがある」ということがわかりました。
この「備考」については、議会の議決が必要な条例の規定ではありません。行政の定める「規則」の一部です(規則の審査に議員が関与することはありません)。この備考部分の規則の改正は、所管課の審査または「例規審査委員会」をパスした規定なのですが、このように、どこを加算しているかわからないような規定の改正について、「市の掲示場に公示している」とか「条例で規則に委任されている」からといっても、説明責任を果たしているといえるでしょうか。誰が、追加支給していることを知っているのでしょうか?これについては、本会議・委員会でも明らかにしていませんが、こういったこともあるということです。
現実に、2003年の夏・冬ともに各100人以上の方がこの「備考」に基づき、この表とは別に5%が追加されています。2004年は更に多くなったといいます。これも条例に基づいているので何ら問題ないと言われるのでしょう。 |
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[参考] 給料等の支給を条例に基づかなければならないと定める法律
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「地方公務員法第24条第6項」 職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、条例で定める
「地方公務員法第25条第1項」 職員の給与は、前条第6項の規定による給与に関する条例に基いて支給されなければならず、又、これに基かずには、いかなる金銭又は有価物も職員に支給してはならない
「地方自治法第204条第3項」 給料、手当及び旅費の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない
「地方自治法第204条の2」 普通地方公共団体は、いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基く条例に基かずには、これを第203条第1項の職員及び前条第一項の職員に支給することができない
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まとめ
”規則”の改正を、「公告式条例に基づいて、市の掲示場で市民に公示しました」ですませてきたところに問題があるのかもしれません。本来そこまで必要だとは思いませんが、こういったことに歯止めをかけておかなければ、議会の条例議決者としての役割も果たせません。少なくとも、「公示したからいい」とか、見てないものに責任があるというのも違うでしょう。
規則の改正のHP公表を提案したのは、こういった背景もあるのです。条例のみならず、規則まで逐条審査することはスタッフもいない市会議員には不可能です。毎日、掲示場を見続けるのは不可能ですし、何よりそこは、議会と行政の信頼関係だと思います。「条例で定められているからいい」ということがどういったことを生んでいるか、わかっていただけたと思います。
裁量の範囲かどうかは議論がわかれるところでしょうが、「成績率の決定」程度にとどめなければ、何でもありということになってしまうでしょう。交渉の結果であれば、条例を改正して議会に提案したり、規則改正を告知するなりしなければならないと思います。
今回は、追加支給された金額については敢えて記載しませんが、現実は、そんなところです。 |
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